楽器は客席へ向けるべきなのか
- 8月21日
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“コントラバスって、楽器を少し客席に向けた方が良いですよね?”
と、先日、私が指導している中学校の吹奏楽部の指揮者の先生から質問を受けました。
さて、私はなんと答えたでしょうか?
“そうですね。少し客席に向けてやっても良いかもしれませんね”
と、私は答えました。
さぁ、ここで話を終わりにしてしまうと、おそらく大炎上になるでしょう。
昨今、吹奏楽でのコントラバスの指導方法において、舞台上のコントラバスの向きについて、インターネット上では盛んに『楽器を客席に向けてはならない』と言われています。
しかし、実は『コントラバスを客席へ向ける』という行為は、音響的には正解であり、不正解です。
私もだいぶ前に見たことがありますが、どこかのインターネットのHPでコントラバスの音飛びの指向性についての研究が、図解も含めて解説が載っていました。
多くの人が、それを元に『コントラバスは全方向に音が飛ぶのだ!』と議論がなされているようです。
しかし考えてみてください。
プロが使うような楽器、それも研究に使われるような楽器と、学校の吹奏楽の現場で使われている楽器では、そもそも同じように楽器が調整されていると思いますか?
そう、ちゃんと調整された楽器は裏板が鳴りますが、調整されていない楽器は裏板が鳴りません。
すなわち、ちゃんと調整された楽器は全方向に音が飛びますが、調整されていない楽器は前方にしか音は飛びません。
だから、私の感想では『完璧に調整されたプロの楽器を基準に学校の楽器を語っても何の意味も無い』というのが、本音です。
それは超高級車の視点で使い込まれてボロボロになった軽トラックを語るのと全く同じ構図です。
そういえば昔、友人たちが集まって話をしていた時、“俺の親父が車を買ってな。2シーター(座席が二つ)で、リアエンジンで、後輪駆動でな。色は白。” と言いました。
すると別の友人が言います “え?ポルシェ買ったの??”
いや…正解は軽トラックです。
確かに似たものだけを見れば〈同じ〉ですが、良くも悪くもポルシェと軽トラックでは、その立ち位置が違います。
調整が不完全で楽器が鳴らない。
裏板が鳴らない。
ともすれば駒が曲がってしまって、表板すら鳴らない。
もはや、弦の振動音しか聞こえない…そんなコントラバスは、学校の吹奏楽の現場では、当たり前のように存在します。
それでも、少しでも会場にコントラバスの音を届けようと思ったら…苦肉の策として、楽器を客席に向けるしかない。
これは吹奏楽の指導者がコントラバスという楽器の構造を知らないから起きた悲惨な珍事ではなく、現場の中で鳴らない楽器を使って試行錯誤の中で生まれた結果である…苦肉の策です。
私は、まずそこに対する〈理解〉が必要だと思います。
その上で、指導するなり提言するなりをしていかないと、おそらく正論や理想論を並べても相手の心を傷つけるだけでしょう。
だから私は、その時あえて “そうですね。少し客席に向けてやっても良いかもしれませんね” と答えました。
もっとも、私が指導している中学校の楽器は、私が調整をしていますから、裏板もしっかり鳴ります。
それでも私は説明不足で混乱することを良しとせず(全体合奏中でした)、あえてその指揮者の意見に合わせました。
この解説、おそらくコントラバスに普段から関わっている人でないと理解に時間がかかると思います。
さて、それでは実際のところ調整技術での『楽器を鳴らす』とは、どういう作業でしょうか。
職人によって考え方は多少の違いはあるでしょうが、私の場合、楽器の横から見た(聴いた)時に、写真のように横板の中心に音が来るように表板と裏板の音量のバランスをとるようにしています。

裏板は音の輪郭を司ります。
そのため、裏板よりも表板の方が音量が大きい場合、音圧ばかりが強調されて音程感の薄い楽器になってしまいます。
逆に裏板を鳴らしすぎると、楽器正面から聴いた時に音が楽器の内部にから抜けてこないような、ちょっと籠った音になってしまいます。
厳密には、使用している弦の種類やその楽器の癖。演奏するコンサートホールでの楽器の位置(反響板との距離)などによって微調整は必要ですが、基本的には、楽器を横から見た時に中心の位置で音が聞こえるように調整しています。
ちなみ言えば、そういう楽器でないと全方向に音は飛びません。
