最近、楽器の調整のご来店いただいたオーナーの楽器で、駒の両端を切り取られている楽器が幾つかあり、そのような楽器のオーナーの方々から『低音の響きが少ない』と、同じような相談を受けました。
答えから先に述べますと、駒の両端を無計画に切り取ると、楽器の低音の響きは弱くなります。
『駒の両端』というのは、〈A〉と〈D〉の部分です。
写真2枚目は、両端が切り取られた駒です。
なぜ、駒の両端を切り取ると、低音の響きが弱くなるのか?
それは、これまで投稿してきた『楽器の調整動画』を何本かご覧いただければ、ご理解いただけるかと思いますが、写真1枚目でいえば、駒の上の〈A〉の部分で4弦の音の響きを作り、〈D〉の部分で4弦の音の輪郭を作ります。
それを特に〈A〉の部分を(必要以上に)切り取ってしまうと、4弦の音の響きが消え、音の芯ばかりが強調されてしまいます。
『4弦(最低音弦)』ということで考えると、〈A〉の部分は音の響きを、〈B〉は音に芯を、〈C〉は音量感を、そして〈D〉は音の輪郭をコントロールします。
ただ、これはあくまで基本ですので、楽器の個体差などの状況により、音の作り方は変わってきます。
そのあたりは、『楽器の調整動画』をご覧いただくと、何となく雰囲気で感じていただけるかと思いますが、およそ、このポジションで間違い無いです。
というわけで、『駒の両端を無計画に切り取るのは、あまり良いことでは無い。』となるわけですが、ここで、疑問を感じた方もいらっしゃるかと思います。
そうです。
“ん? Aubert (オーベルト)の駒って、もともと、かなり幅が狭くないか?” と思われた方、かなりのマニアです。
実は、このAubert(写真・右) 、一般的によく使用されている Teller (写真・左)や Panpi などと比べると、足元の厚みは同じでも、駒の上部の厚みは1mm以上、厚くなっています。
(写真・右がAubert)
Aubert は、この厚みを利用して、楽器の音色に響きを与えるように設計されているように思います。
だから、単純にAubert の駒の上部の幅が狭いからといって、同じように加工しても全く意味がない、ということですね。
いつも申しますように、駒の交換や、駒の調整の際には、よくよく弦楽器職人と相談をされてから、手を入れていくことをお勧めします。