普段から、駒の交換作業をしながらオーナーと話をしている時に説明をしているので、特に企業秘密的なこともないので、ご紹介。
駒を立てる角度の話。
インターネットでコントラバスの駒の立て方などを検索してみると、『表板に対して90°になるように立てる』という記事が多いですが、その『90°になるように立てる』というのは、あくまでバイオリンの場合であって、コントラバスの場合、実は、その立て方だと弦の振動を表板に伝えきれなくて、音量感がなかったり、楽器本体の響きが得られなかったりします。
コントラバスの場合は、3mmほど駒を前に倒すように足裏を合わせてやると、音量感と楽器の響きが適切に得られます。
写真の駒は、まだ仕上げていないので隙間が広い印象ですが、これで駒の頭を削って(下げて)弦高をキッチリと調整をすると、3mmぐらいになります。
この理屈は、言われてみれば簡単に理解できる話なのですが、バイオリンの場合は、足裏の面積が小さいので、駒を(表板に対して)垂直に立てても、弦から来る圧力を均等に足裏に伝える事が可能です。
しかし、コントラバスの場合は足裏の面積が広いので、駒を垂直に立てると、重心(圧力)が後ろに寄りすぎて、駒の下側(テールピース側)に強く圧力が掛かり、上側(指板側)は圧力が少なく、スカスカの状態になってしまいます。
それを理解して、駒を横から見た時に二等辺三角形のように見立てて駒足を合わせる職人もいますが、その場合、駒の足裏全体に、均一に弦の圧力がかかるので、音量感があり、演奏した時の『馬力感?』も感じる事ができます。
ところが、二等辺三角形タイプですと、今度は(垂直に比べて)弦からの圧力が大きすぎて、楽器の響きが弱くなります。
説明をすると、このタイプの立て方の場合、弦が振動する、いわゆる強制振動の再生能力は高いのですが、楽器の響き、いわゆる『余韻』というものを弦の圧力で(表板を)ミュートしてしまいます。
もっとも、ピックアップマイクを使用した際のハウリング対策として考えるのであれば、弦の振動量が多く、楽器の響きの少ない二等辺三角形タイプは有効かもしれません。
当店の駒の立て方(写真)は、駒の足裏の後ろ半分に弦の圧力を掛け、前半分は圧力を少し抜けるように駒足を合わせます。
そうする事で、適度に圧力をかける事で楽器に音量感を与え、適度に圧力を抜く事で、楽器に響きを与えています。
そして、適度に圧力を抜く事で、駒の表面に、二等辺三角形タイプよりも(圧力の)余裕ができるので、当店の『調整解説動画』の中で登場するように、駒の表面を少し紙ヤスリで削るだけで、自由自在に音色を変える事ができます。
駒の立て方は職人によって考え方が違いますので、一概に、当店の方法が正解とは言えません。
『他の職人が駒を立てた楽器は調整が難しい。』と言われるのは、そういう意味で『日頃の調整は、駒を立てた職人に依頼をしましょう。』と言われるわけです。
コントラバスとバイオリンは、似ているようで違うのです。