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駒の足の厚みについて

 2年ほど前でしょうか?  私の修行先のであったオリエンテの二代目と話をしていたときに、二代目が “どうも、駒の足の厚みは、薄くするよりも、ある程度の厚みを残した方が良いと思う。” と言いました。    写真1枚目は、わりと一般的な駒の足の厚みですが、私も、二代目が指摘をするまでは、私もこれぐらいの薄さがちょうど良いと、漠然と考えていました。

      ところが二代目から指摘されたので、実験をしてみると、確かに足に厚みを残した方が、明瞭で力強い低音感が得られます。    そこで、いつものように詳しく実験と研究を重ねて、結果、やはり『駒の足の厚みは、(ある程度)残した方が良い。』という答えに行き着きます。      というわけで、ここからが解説。  前述のように、写真1枚目が一般的な駒足(こまあし)。

 2枚目の写真は、オリエンテから送られてきたばかりの楽器で、二代目が立てた駒。


 3枚目の写真が、当店の実験用の楽器、私が立てた駒。

  1枚目と比較して、2枚目・3枚目の駒の足が厚いのが確認できるかと思います。  

 では、なぜ駒足が厚めの方が良いのかというと、写真4枚目を見てください。

 駒に弦をかけて、楽器に取り付けたとして、弦からかかる圧力の方向性は、写真の矢印のようになるかと思います。    特に足の方では、足の内側に強く圧力がかかります。    駒に弦をかけたときに、駒の足の内側には強い圧力がかかるので、弦の振動は、そこから避けるように、黒く塗りつぶした部分の、駒の足の外側に(振動が)多く流れていきます。    このとき、駒の足裏が薄いと、足裏全面に振動が効率よく流れずに、いわゆる足の軸というか、柱(?)の真下付近の、しかも外側でしか、表板に振動を伝えられません。(写真5枚目)

  結局、足を薄くすると、弦から伝わってきた振動エネルギーを足の裏で吸収してしまうので、そこから表板に伝えられない、という状況になるようです。      逆に、写真6枚目(これは全く未調整の駒ですので参考程度に)、ある程度の厚みを残すことで、駒の足裏全体に、駒の上部から来る弦振動を、表板へ効率よく伝えることができます。

 わかりやすく例えるならば、ペラペラと薄い紙、またはアクリル板を振ってみると、振動と一緒に撓んだり(たわんだり)揺れたりして、その振動を逃がそうとしますが、逆に厚いものを使用すると、撓んだり曲がったりすることなく、振った通りに上下左右に動かすことができます。    簡単にいえば、そんな感じ。  薄すぎると、振動と一緒に動いてしまって、振動のエネルギーを逃してしまう。  

 バイオリンの場合、駒足は薄いです。  それは、おそらく駒の大きさや、軽量化の問題や、それと(ここ重要)楽器として求められる周波数帯が、コントラバスとは違って、駒足を薄くした方が、良い音が求められるのだと思います。    『バイオリンとコントラバスでは、求められている周波数帯が違う。』というのは、非常に大きなことだと考えています。    バイオリンの場合、コントラバスに比べて音域が高い。  すなわち、振動の波が小さく細かい。    逆にコントラバスは、音域が低いので、その振動の波は大きく、(力強く)ゆったりとしています。  

 バイオリンのように、高音域で振動の波が細かいのであれば、駒足を薄くしても良い。  むしろ、ある程度薄くすることによって、低音部分をカットする。  そして、必要な高音域(正確には中高音域)だけ表板へ伝わる。  それぐらいの足の厚みが良い。(=結果的に薄くなる)      電気回路で例えるならば、低音域をカットして、高音域だけを通過させる、いわゆる『ハイパスフィルター』のような役割を駒に持たせることができる。    だから、バイオリンの足が薄いというのは、合理的な話です。  しかしコントラバスとなると、話が違ってくる。    駒足を薄くすると、弦の振動エネルギーの大きさに耐えられず、逆に振動を逃してしまうので、結果、振動伝達に、かなりのロスが生じてしまうため、音量も低音感も、正常な状態(理想の状態)よりも小さく(少なく)なります。    結果『欲しい低音が(物理的に)得られない』ということになります。  これは、思い込みや予測ではなく、間違いない事実だと言って良いと思います。  やってみれば、すぐに結果が出る。  

 言われてみれば、すぐに納得できるのに、言われてみないと、気が付かない。    そんなことって、よくある話で “コントラバスの調整技術って、まだまだ研究の余地が多く残されているなぁ。” と、思うわけですね。

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