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本当に膠は最強なのか?

膠が最強なのは、扱う職人の技術が高いことが大前提だ。

 

 コントラバスの製作や修理で使用される接着剤は、膠(にかわ)という天然素材の接着剤です。

 

 世間的には、なぜか不思議と膠という接着剤を使用しているだけで、賞賛される。

 業界的には、膠以外の接着剤を使用すると非難される。

 

 

 『膠と使用した楽器は良くなる』と言われたり『人工の接着剤を使用した楽器は鳴らない』と言われたりする。

 いやいや、楽器の鳴る鳴らないは、結局のところ職人の製作技術が高いか低いか、その一点だと私は考えています。

 

 腕の悪い職人が、膠で楽器を製作しても、その楽器は鳴りません。

 腕の良い職人が、人工接着剤を使用して楽器を製作すると、その楽器は鳴ります。

 そして、腕の良い職人が、膠を使用して楽器を製作すれば、それは当然、良くなる楽器が出来上がります。

 

 

 Eastmanという中国のメーカーのコントラバスのネックを取り外したときに、謎の接着剤と遭遇します。

 見たところ、何かの樹脂系の接着剤のようで、明らかに膠ではありません。

 とりあえず少し削り取って、1時間程度、水に浸けてみます。

 膠であれば、特有の臭いと粘りが出てきますが、この接着剤には臭いも粘りも出てきません。

 ただ、水を含むと柔らかくなるようです。

 柔らかくなるが、接着力は皆無です。

 

 

 Eastmanは楽器のボディは膠で製作されていたので、この人工接着剤はネックの接着のみに使用されているようです。

 Gligaは、楽器内部の部品の接着には膠ではなく、人工接着剤を使用されていることを確認しています。

 Orienteでも人工接着剤を一部使用している型番の楽器もあります。(膠のみで接着された楽器もあります)

 私の修行時代に、西ドイツ製の楽器でもネックの仕込みには人工の接着剤を使用されているものを見たことがあります。


 

 昔は『人工接着剤は修理の際に剥がせない』などと言われたものですが、近年は非常に高性能な接着剤も開発されて『接着強度は強いが、修理の際に剥がしやすい』というものも多く出てきました。

 今回のEastmanにしても、解体には何の支障もありませんでした。

 

 『膠は数百年も保つことができる』などと言われますが、確かにそれは現実として存在するものの、そもそも、それは職人の技術が卓越していたからこそ成立するもので、ろくに技術の無い職人が、いくら頑張っても10年でも保たせることは不可能です。

 

 

 私の個人的な考えとしては、(あえて言えば)低価格帯の楽器ほど、人工接着剤を使用した方が良いのではないか、と思います。

 当店の〈あのグリガ〉などは典型ですが、低価格帯の楽器は、あまり質が良いとは言い難い、癖の強い材木を使用していることが多いので、楽器として完成してからも、温度や湿度の変化で捻れたり、膨らんだり縮んだり、木が大きく動くことが多いです。

 そのため、温度や湿度で硬度が変化する膠では、強度が担保できない可能性がある。

 膠は湿度の多いところでは、柔らかくなってしまいます。

 

 格好つけて膠を使用して、毎度毎度、壊れるようであれば、それは何の意味も無いことで、適材適所として、人工接着剤を使用するのは有りだと思います。

 

 

 

 膠という接着剤の扱いは、難しい。

 以前、『数年前にフルレストアされた』という楽器を調整する機会がありましたが、幾つも『膠で接着した努力は見えるが、接着されていない』という箇所を発見しました。

 結局、その時は“後々、ノイズが出たり、強度的に不安を感じるような時は修繕しましょう。”となりましたが、実際『膠を使用した、上手く無い修理』は多く存在します。

 

 それでも膠は最強と言えるのか?

 と、私は考えてしまいます。

 

 

 個人的には、膠を使用する使用しないは、あくまで職人側の判断であって、周囲があれこれ評価するものではないと考えます。

 世間の評価が『膠は最強』などと煽るから、上述のように上手くも無い職人が膠を使いきれずに粗末なレストアを仕上げてしまう。

 あれなら誰でも使える工作用の木工用ボンドで組み上げた方が、よほど耐久性が担保できたでしょう。

 

  

 人工接着剤を使用しているようなコントラバス業界はダメだ、と言うよりも、上手くも無いのに格好つけて膠を使って楽器の耐久性を下げてしまう方が、よほどダメな行為だと私は思います。

 

 

 メーカー側が膠以外の人工的な接着剤を使用する理由としては、作業コストと楽器の強度を考えた場合に、人工接着剤の方が扱いやすいと判断するのだと思います。

 

 楽器全体に人工接着を使用するのであれば、膠の原料単価の問題の可能性も考えられますが、どのメーカーも人工接着剤を使用する場所は一部なので、おそらく、膠の硬化速度よりも、少し硬化速度に余裕のある接着剤を使用した方が、その場の職人の作業の質が安定する…などの理由があるのでは無いかと推測されます。

 量産楽器の場合、それを作っている人々が『全員が最強の職人さん』というわけではありませんので…。

 

 

 そいうわけで、色々な視点から見て、単純に『膠は良くて、人工接着剤はダメ』とは言い切れないな、と本日、解体したEastmanを見て、そんなことを考えていました。

 このネックは、膠で取り付けます。

 その方が慣れているので。





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