駒が弦振動をどのように楽器本体へ伝えているか、という話。 コントラバスは、弦が振動して、振動を駒を通して楽器本体へ伝えますが、その駒の上の振動の通り道は各弦によって違います。 1枚目の写真の通り、おおよそ、このような道を通って楽器の表板へ伝わっていきます。 ただ、当然ですが振動の100%が、この道を通るわけではないので、この振動の道を『高速道路』ぐらいな感覚で見てください。 楽器を鳴らした時に『音量のバランスが悪い』という症状の多くは、この駒の上の道で振動が渋滞している場合が多いです。 だから、渋滞をしている場所を特定して削ったり磨いたりして渋滞を解消して振動を通りやすくしてやると、他の弦に干渉(かんしょう)することなく、その処理した弦の音だけが増幅します。
各弦の振動の通り道を整備することで、楽器全体の音量バランスが適正になり、それが、その楽器のデフォルト(初期設定)のような状態、となります。 次に、音に『響き』を作ります。 写真1枚目の『高速道路』ばかりを整備してしまうと、弦振動の膨大なエネルギーが表板に大量に流れ込んでしまい、音の芯ばかりが強調されてしまったり、一番太い4弦などは走行距離(?)が短い分、エネルギーが減衰することなく流れ込んでしまうので、逆に音の芯どころか、ボアボアと輪郭の無い音になってしまいます。
そこで写真2枚目。 赤い線の方向に振動を逃がすことで、1・2弦には音の響きを与え、3・4弦には音の輪郭を与えます。
そうやって、必要に応じて駒の上の振動の流れをコントロールして表板へ伝えることで、楽器の自然な鳴りを引き出すことができます。 もっとも、写真の黒い線が『高速道路』だとしたら、赤い線は『幹線道路』のようなもので、厳密には音域によって駒が振動する場所が違うので、そういう意味では『住宅街の生活道路』のような振動の道もあるわけです。 結局、その『振動の道』を、どれだけ詳細に読み切れるかどうかが、楽器を上手く調整できるかの肝(きも)なのかな、と思います。
当店の『ウルフトーンを消す』という調整技術は、この基本的な調整技術の応用です。 楽器の共振による振動の渋滞を、駒の上の振動の通り道を交通整理することで渋滞を緩和し、ウルフトーンを消すというのが作業工程で、特に技術的に何か難しいことをしているわけでは、ありません。
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