少ない牌(ぱい)の奪い合い

 ちょっと難しい、お話です。

 異論反論あるかとは思いますが、とりあえず、思ったことを素直に記してみます。(特に何かを批判している記事では、ありません。)


 絃バス屋を開業して約三年半、その間に首都圏には幾つかのコントラバス専門店が増え、賑やかになってきました。

 ただ、この三年間で感じたことは、初めてコントラバス専門店に足を運ぶ人よりも、これまで他の弦楽器専門店で調整などを依頼していたオーナーが、ご縁がありご来店いただいた場合の方が圧倒的に多いように感じました。

 この現象は、あながち当店だけの現象では無いように思います。



 私がオリエンテで修行した期間は丸20年になりますが、その当時、オリエンテでは年間で約500本のコントラバスを製作していたのですから、私が修行していた期間に送り出したコントラバスだけでも約10,000本以上になります。(そのうち、かなりの量を関東圏へ出荷してきました。)

 オリエンテだけで、この数なのですから、この20年間で世の中(日本国内)に送り出されたコントラバスは相当な数になるはずです。


 ところが、実際にコントラバスを調整に出すという習慣のあるオーナーは(学校も含めて)『一定数』で留まってしまっていて、『コントラバス専門店が増えたので、コントラバスを積極的に調整に出そうというオーナーが増えた』というよりは、現段階では、顧客の絶対数が(急激に)増えたわけでは無いので『コントラバス専門店同士で、少ない牌(ぱい)の奪い合い』のような構図になりつつあるように感じたりもします。

 このままでは、この先のコントラバス業界(?)の発展は多難の時代を迎えそうですし、『次の世代のコントラバス職人を育てて支える』ということも難しくなりそうです。




“そういうわけですから、皆さん、コントラバス屋さんに足を運んでください!”

 と言うことは簡単なのですが、そもそも『なぜコントラバス専門店には、〈行く人〉しか行かない。』という状況になってしまったのかを、(私の立場としては)まず業者側の視点で考える必要があるかと思います。


 その一つは『調整』という曖昧(あいまい)な言葉かな、と感じます。

 過去に『調整という魔法の言葉』などという記事を書いたことがあります。


 とにかく、極端に言ってしまえば、楽器が壊れて〈修理〉という状態でなければ、何でもかんでも『調整』と言い切れないわけでも無い・・・というぐらい、幅広い意味合いで〈調整〉という言葉は使われています。 

 だから、その楽器のオーナーでさえ『これまで、調整はしてもらったけど、どんな〈調整〉をして、どのような結果が出たのか、いまいち理解できていない。』という場合も・・・あったり、無かったりと、そんな話も来店されたオーナーたちから耳にしたことがあります。



 『調整』という作業は魔法ではなく、あくまで物理的な作業で理論的に施される(ほどこされる)作業ですから、必ず理屈で説明ができます。

 そう考えると、コントラバス職人が『どのような作業をしたので、そのような結果が得られたのか。』ということを明確に示していく必要が今まで以上にあるような気がします。

 ともすれば、特に今の時代は(色々な場面で)『曖昧・あいまい』が受け入れられない社会なのですから、それを無視するわけにもいきません。

 まず、この『調整』という言葉に、もっと具体性を持たせることができなければ、“コントラバス専門店へ行ったら、もっと弾きやすくなるかもしれない。” と初めて専門店へ足を向ける人を増やすことは難しいのかな、と考えています。

“兎にも角にも(とにもかくにも)、(専門店に)行ってみれば、良さがわかる!” なんて言うのは、いくらなんでも乱暴ですし。





 重要なことは、どこかの一部の店だけが盛り上がるというよりも、演奏者も含めたコントラバス業界全体で盛り上げて行かないと、『コントラバスは定期的な調整(メンテナンス)が重要』という文化は広まらないのかな・・・と思い、投稿してみました。


 もっとも・・・“近隣にコントラバス専門店がない!” という話になると、論点が変わってきそうな気もしますが・・・・・・仮に、とある一つの地方都市でコントラバス専門店が増えたとしても、時間(数年単位)が経つと、このままでは、多かれ少なかれ同じような状況になるように思います。