先日、常連さんからチタン製のエンドピンを譲り受けたので、店の楽器に取り付けて試奏をしてみました。
・・・・・・誤解を恐れずに言うと、あまり変化を感じませんでした。
当店の、普段の実験用の楽器と〈あのグリガ〉の2本で試奏してみましたが、どちらも同じように、若干、チタン臭い音色は感じますが、それこそ私の印象としては “晴れの日と雨の日では、楽器の鳴りが違うよね。” 程度の変化しか、感じ取れませんでした。 オリジナルのスチール製のエンドピンよりも、チタン製の方が硬質で、重量も軽いので、楽器のサウンドも若干、軽さと硬さは出るのですが、“この程度の変化であれば、駒を削れば出すことは容易だ。” と感じました。 逆に、この軽くなった音色の状態から、駒の調整で、音に〈重さ〉を与えることも可能な範囲だろう、とも感じます。 結局のところ、当店の判断としては『駒の調整の範囲で変化可能な音色であって、無理に特殊金属のエンドピンを選択する必要性は感じない。』となるのかと思います。 当店の『駒の調整解説動画』でも確認できますように、コントラバスという楽器は、そもそも駒の調整で、音の響きも輪郭も、硬い音色も柔らかい音色も調整で可能なわけですし、弦4本それぞれの音量や音色のバランスを整えることも可能です。 だから、その範囲内でオーナーから求められる音色であれば、駒の調整で作り上げてしまいますし、実際、その範囲を超えた音色を要求されたことは・・・今のところ、無かったかと思います。
当店にご来店いただいたオーナーの方々とも、『部品を変えたら、楽器の音色は向上するのか?』という話題は出てきます。
そのような時に、私がいつもお答えしているのは・・・
部品(テールピースやエンドピンなど)交換は、〈うどん〉でいえば七味唐辛子のようなもの。
そもそも〈うどん〉が美味くなければ、どんなに高級な唐辛子をかけても〈うどん〉は美味くならない。
楽器でいうところの〈うどん〉は、駒の調整と魂柱の調整です。
まずは、駒と魂柱の調整を完璧に仕上げる必要があります。
そうなのです。結局、駒と魂柱の調整が完璧な状態になされて、その上で、その他の部品を交換した時に、初めて楽器全体の響きに良い影響を与えるわけで、それが成されていないと結果的にバランスが崩れる。
そして、駒と魂柱が完璧に調整された楽器には、実は特別、特殊な部品を装着する必要が無い場合も、少なくない。
本来であれば、その楽器を調整する職人がキッチリと楽器を調整をして、楽器本来の鳴りを完全に作り上げてから、『もう一味!』との判断で、このようなチタン製のエンドピンのようなものを使用する時に、初めて効果があるものなのかな、と私は考えています。
だから、『このエンドピンを使えば楽器の音色が変わります!』みたいな安易な売り方には、私は違和感を覚えますし、同じように、『このウルフキラーを使えば、ウルフトーンは消えます!』と、安易にウルフキラーを販売することにも、私は違和感を感じます。
エンドピンを交換すれば、大なり小なり、楽器の音色は変わりますし、ウルフキラーを使用すれば、大なり小なり、ウルフトーンは消えますが、そもそも、駒の調整で楽器の音色は変化させられますし、ウルフトーンは消せます。
私は、これらの特殊パーツを開発してこられた企業の方々には何の批判的な思いはなく、逆に『コントラバスという楽器の響きを、いかに良いものとするのか?!』という熱い情熱を感じ、感謝と敬意を払いたいと、素直に感じます。
私には確かにウルフトーンを消す技術はありますが、それでも実際、消しきれないウルフトーンもあります。
そのような時には、素直に “これは、最終的にウルフキラーを装着するという選択肢も、あると思います。” とオーナーに伝えます。
でも、『ウルフキラーを装着するという選択』は、私が出来る限りの手を尽くして、それでも消しきれない最後の最後なわけで、『ウルフトーン=即、ウルフキラーで消す』という安易な選択はしません。
結局、このような特殊部品は『適材適所』であって、使い方をよくよく考えて取り付ければ効果を発揮しますし、使い方を間違えたり、相性の悪い楽器だったりすれば、逆に楽器の鳴りの足を引っ張ってしまう結果になるかと思われます。

