凄腕の職人さん

 先日、修理と調整にやってきた、SUZUKI(鈴木バイオリン製造)のコントラバス、1983年製作。  SUZUKIといえば、1800年代の終わりに日本で初めてバイオリン製作を始めたという伝統あるメーカーです。  コントラバスに関しては、どちらかというと『教育用』に徹して製作しているイメージがありますね。      さて、その日、この楽器の駒を新しく立てて、最終調整の前段階の仮組みのような状態で、その日の仕事を終えます。  仕事を終えて、ボ〜ッと楽器を眺めながら “この楽器を担当した職人は、相当の凄腕だろうなぁ。” と感じます。  楽器の輪郭を出す線(ライン)が、まるでCGで描かれたように歪みがありません。  私も一応、コントラバス製作の修行を積んできましたし、これまで幾つもの海外の製作者の楽器も目にしてきましたが、この楽器・・・本当に美しい線を出しています。

 これは、輪郭を削り出すときに、迷いがあるとダメです。思い切って一気に削らないと、このラインは出せませんし、腕と手首を精密機械のように楽器の横板の曲面に合わせて動かし削るだけの技術がないと不可能です。  鉋(かんな)などで削った後に、紙ヤスリなどで磨くわけですが、そこもまた木目を読みながら磨かなければ、せっかく美しく削りあげても、輪郭の線に歪みが出てしまいます。  もう、この次元になると “真似をしてみろ。” と言ってみても、そう簡単に真似のできない技術です。  『じっくり時間をかければ完成する技術』ではなく、『一気に削りあげて、一気に磨き上げるからこそ成立する技術』なわけで、まさに熟練職人にのみ持ち得る技術ということです。  職人の技術は必ずしも『時間をかけて作業をすれば良いものができる』というわけでは、ありません。     “あたしも楽器の輪郭の線を出すことに関しては少し自信はあるけど・・・この職人の技術は、ちょっと異次元だな。”  と、30分ぐらい眺めていても飽きないぐらい、すごい技術なわけです。      SUZUKI のコントラバスといえば、オリエンテと同じく〈量産品〉と言われてしまう楽器ですが、そのような量産品といわれる楽器の中でも、背筋がゾッとするぐらい高い技術を込められて作られた楽器を目にすることはあります。  与えられた条件、決められた材料や製作工程・製作時間の中で、職人の意地というか誇りをいうか、そういう強い〈想い〉を込められて作れ、それをまた感じ取ることができるとき、なんとなく、その楽器の製作を担当した職人と心が通じたような気持ちになります。    “本当は、もっと高級な楽器を作りたいのに・・・。” などと思っていては、こんな美しい線は絶対に出せません。 目の前にある、これから楽器となっていくもの一つ一つに対して情熱を注がなければ、これほどの高度のな技術を維持することは不可能です。        どうしても個人製作者ばかりに注目が集まることは仕方のないことですが、こうやって弦楽器メーカーの中で、決して名前が表に出てくるこのない職人の中にも、『凄腕の職人さん』は必ず居るものです。