『単板削り出し』で作られた楽器は優秀なのか?

『単板削り出し』で作られた楽器は優秀なのか?  という考察。    私の答えから先に出してしまうと、『腕の悪い職人の単板削り出しよりも、腕の良い職人のプレスからの削り出しの方が、良い楽器になる。』という現実。      私の京都での修行時代から、修行先の二代目とよく話題になっていたことが、『単板削り出しを〈売り〉にしている楽器って、そんなに凄いのか?』ということ。    コントラバスには、ざっと2種類の製作方法があって、一つは、大きな木の塊から削り出す『単板削り出し』という製作方法と、厚さ10mmほどの板をプレス成型機にかけて(大まかな)膨らみを出してから、精密な厚みを削り出していく製作方法があります。    オリエンテなどでは、楽器のグレード(型番)によって、プレスと(単板)削り出し、どちらも採用されています。        さて先日、『手抜き製作』で盛り上がった、ルーマニアの『Gliga・グリガ 』というメーカーの楽器、こちらも『単板削り出し』を売りにしている楽器ですが・・・“もう、この際だから、絃バス屋の研究に付き合っていただきましょう。” ということで、『単板削り出しの、結果。』を公表させていただきます。  もう・・・それぐらいさせていただいても、誰も文句は言わないでしょう。  ちなみに、この楽器は修理依頼ではなく、当店で下取った楽器です。      『単板削り出し』とされている表板の厚みを計測してみます。  計測するには専用の道具があって、これで0.1mm単位の計測が可能です。(写真2枚目)    計測をしてみると、どの場所も、あまり厚みに差がなく『誰でも削れる、可もなく不可もない厚みで削られている。』ということが判ります。

 その中で、よく『グリガは鳴りにくい』という話を耳にするのですが、その原因も、ハッキリと看て(みて)取れます。  楽器の周囲の板の厚みが、厚すぎます。  数枚の写真でも確認できますが、『55(5.5mm)〜70(7.0mm)』と書かれています。  この周辺、通常であれば『3.2mm〜3.5mm』が適切で、この楽器は木目が少し広いので、3.5mmほどが適切かと思われます。  ということは、コントラバス製作の基本から考えても、2〜3mm前後、板が厚いということになります。    その表板の外周のあたりを薄くしなければ、物理的に『楽器が鳴りにくい』という現象に直結します。        そして、駒の足の下の裏側付近、表板の中心部の厚みが、薄いです。  写真では、鉛筆で丸く囲っているあたりは、『8.0mm〜12.0mm』ぐらいの厚みがあった方が、楽器の音に締り(しまり)が出て、太い低音が引き出せます。    この鉛筆で囲った付近が8.0mm前後の厚みには、おそらく狙いがあります。  この付近を薄くすると、一見(一聴?)すると、音量が大きく感じます。  もっとも、駒の足付近の板が薄いのですから、弦からの振動を直接受ける関係もあり、物理的に音量が大きくなることは、理解いただけるかと思います。    この付近を薄くすると、物理的に音量が大きくなるのですが、音楽的には、〈まとまり〉の無い散漫な低音になりがちです。  簡単に言えば、『何でもかんでも(振動を)増幅するから、不要な音(振動)まで出てしまう。』という決定的な問題があります。    この手法は、わりと多くのメーカーで採用されていて、『新品なのに、オールド楽器のような響き!』と謳って(うたって)いる楽器は、この方法で製作されている場合が多いです。    ただ・・・本来であれば『8.0mm〜12.0mm』ぐらいの厚みが欲しいところを、無理をして薄くしているのですから、何十年単位で考えた場合、楽器の寿命は短いかと思います。    

   総じて、この『Gliga・グリガ 』というメーカーの楽器でいえば、単板削り出しの価値は感じません。  ともすれば、これだけ厚みの差の少ない削りであるなら、プレス成形をしてから、精密に厚みを削り出した方が、品質も高く、(無駄に材木を廃棄しない)環境に優しい楽器が製作できます。      結局のところ、職人が明確な意思もなく削り出していれば、単板もプレス材も関係ないということです。      今の時代、職人の技術がなければ、単板削り出しは、職人の自己満足だけの、ただの環境破壊です。          単板削り出しは、確かに魅力ではありますが、購入される際には、よくよく、購入される弦楽器専門店のスタッフと相談をされることを、お薦めいたします。