野生児

 学校で使用される楽器。

 当店も地元の管楽器専門店と組んで、埼玉県内の中学校や高校のコントラバスの修理・調整をさせていただいておりますが、こと所沢市内となると、顧問の先生や生徒が直接持ち込まれる場合も少なくありません。

 学校で使用される楽器は、さすがに毎日数時間、子供達が弾き倒しているわけですから、

“よくまぁ、『弾きこまれた感じの音』が出てるなぁ。”

 と感じることも多いですし、逆に倉庫の片隅で長い年月の眠りについていた楽器などが来ると、

“はてさて、そろそろ目を覚ましてもらわないと、困るんですけどね。”

 と、楽器を宥め(なだめ)ながら調整をしていくこともあります。



 注目すべきところは『よく弾きこまれた感じの音の出る楽器』が必ずしも『よく鳴る楽器ではない』ということです。

 その『よく鳴る楽器』というものの(私の中での)詳しい定義は、そのうち書かせていただきますが、コントラバスを演奏される方であれば、なんとなく『よく弾きこまれた感じの音』と『よく鳴る楽器の音』の違いを感覚的に理解していただけるかと思います。

 それでも簡単に説明するなら・・・言葉の表現として『よく鳴る楽器』というのであれば、それは完璧に調整をされ、楽器の鳴りを(良い意味で)意図的にコントロールされた楽器です。

 『よく弾き込まれた感じの音の出る楽器』という言葉で表現するのであれば、それは『未調整ではあるが、とにかく弾き込まれることで(鳴りが)覚醒した野生児』みたいなものです。

 そういう意味で、学校で使用されている多くのコントラバスは、なかなか元気一杯の野生児です。



 そうやってコントラバス専門店に持ち込まれた(学校の)楽器は、『野生児の闊達(かったつ)な良いところは活かして、演奏しやすく再教育(調整)をする。』というような作業工程になります。

 教育現場に納入される楽器の多くは、弦楽器専門店で細かく調整されること無く未調整のままで納品されていますから、そもそも野生児しか育たない環境・・・のようなものですね。



 この写真の楽器『ORIENTE HO-30 2014年製』も同じく野生児ですが、実は、この楽器・・・私が本体の表板・裏板の削り出しと、研磨などを担当しています。

 2014年といえば、絃バス屋を開業する1年前で、その頃には、私の中でコントラバス製作の理論の構築はできていて、特に『HO-30 と HO-38 の、材質の違いによる音量・音質の差を、微妙な製作方法の違い(削り出しの板の厚みを、部分的に0.1mm単位で変える)で解消てしまおう。』という技術も身につけていましたので、

“この楽器・・・あたしの狙った、出るはずの音が全く出ていない。”

 と、苦笑するわけです。

 もう、そもそも未調整なのですから、仕方ないのです。


 そういうわけで、今回は『本来、製作段階で狙った楽器の鳴り』を調整で引き出しておきました。これが、本来の HO-30 という楽器の鳴りです。

 作った人間が調整するのですから、それ自体、何も難しいことはありませんが、そこは野生児、ちょいと〈教育〉するだけで、恐ろしい鳴りっぷりです。



 ところで、近頃、学校関係の楽器に使用されている弦に、ピラストロの『オリジナル・フラットクロム(Original Flat-Chrome)』が多く見受けられます。

 確かに低音の豊かさは比類なきものだとは思いますが、この弦、あくまで私の個人的な感覚ですが、この弦を使用するには非常に楽器の調整が重要になってきて、調整が上手くないと音程感のないモコモコした低音になってしまいます。

 それとこの弦の特徴でもある発音の鈍さが、初心者の中学生や高校生には、どうかな・・・という感想もあります。


 発音の鈍さに関しては、楽器の調整の方で改善させることはできますが、だからといって、この弦の良い感じの〈鳴りっぷり〉の要因である弦の大きな振れは、演奏者がコントロールする以外に安定させる方法はありません。

 『吹奏楽』というジャンルから考えてみても、管楽器と打楽器が主体で楽器の構造上、圧倒的に弦楽器よりも発音が早い楽器たちの中で、そもそも発音の遅いコントラバスに、さらに発音の遅いオリジナル・フラットクロムを使用するというのは、

“確かに音質に魅力はあるが・・・初心者が使うには、あまり現実的ではない。”

 と、私は思います。(あくまで個人的な見解です。)


 さて・・・あまり話には聞きませんが、実際のところ、中学校・高校の吹奏楽の現場では、どのような弦(音色)が求められているのでしょう?