可能性

 コントラバスという楽器の可能性・・・というか。  真夜中の店で、そんなことを考えることが増えました。   正直な話、“私の調整した楽器の音色は、(プロアマ問わず)音楽の現場の最前線で通用しているのか?” と、心の内では、いつも気に掛かっています。        よくお話ししますように、コントラバスという楽器を取り巻く環境は、常に変化し続けています。  それが単純に演奏会場の音響設備の進化や、楽器周辺機器の進化というだけではなく、コントラバスに求められる〈音〉というか〈音楽〉というものが、やはり数年前とは違ってきている感触があります。    私の技術と感性は、そのような激動の時代の流れの中で演奏をされている人々の要求に、的確に応えられているのだろうか・・・と思うわけですね。          ここ数年でしょうか?  どうも急激に『コントラバスに求められる〈音〉』の難易度が上がった気がします。  それは単純に、ご来店されたオーナーの好みというよりは、(ジャンルを問わず)コントラバスを取り巻く音楽の現場で、その〈音〉が求められているように感じます。        コントラバスの音は〈芯〉・〈響き〉・〈輪郭〉の3要素から成り立っているのですが、この『〈芯〉・〈響き〉・〈輪郭〉』の絶妙なバランスの音色を、多くのオーナーの方々から求められます。      それまでのコントラバスの(調整技術による)音色の主流(?)は、低音域は〈響き〉が多くて〈芯〉が少なく、逆に高音域は音の〈芯〉が強くて〈響き〉は弱い。  音の〈輪郭〉に至っては、あまり重要視されていなかったように思います。

      当店でコントラバスの調整を体感していただいた方であれば、ご理解いただけるかと思いますが、よく投稿される『調整作業動画』は、あれは、あくまで基本であって、『そこから最終的に、どこまで詰めきれますか?』という部分が、一番重要になってきます。            真夜中の静寂の中の店で、軽く弦を弾いて(はじいて)みます。  囁き声(ささやきごえ)ぐらいの大きさで。    未調整の楽器だと、弦の振動しか感じませんが、適切に調整された楽器は、たったそれだけの小さな音でも、空間の空気の揺れを感じることができます。  これは『高級な楽器』だからではなく、どんな(安い?)楽器でも、同じ現象が起きます。    “オールドの楽器であれば、それぐらい可能。” と思われるかもしれませんが、もし、その楽器をコントラバス職人が全身全霊をかけて調整に挑んだら、私は〈違う世界〉が見えてくると思います。    結局、楽器の(基本的な)能力に依存して調整をし、あとは楽器に取り付ける付属品で誤魔化すような方法は、(技術も知識も)未熟な職人(?)でも可能なわけで、もはや、そういう時代遅れで、手垢のついたような話題は、私には無意味で、興味もありません。            オリエンテで20年間コントラバスを作り続けてきて、そのコントラバスの構造は、私の心(精神)と身体に染み付いていて、そこからイメージされる〈音〉に想いを寄せる時に、“まだまだ調整技術によって、コントラバスという楽器の潜在的な能力は、引き出せるのではないか?” と、いつも感じるわけです。          なんでしょう・・・私は、コントラバスという楽器の潜在的な能力の隠れた扉を、まだ開けていないような気がしてなりません。      と真夜中に、そんなことを考えるわけですね。  う〜ん、まだまだ可能性を感じるのです。コントラバスという楽器に。    そして考え始めると、眠れなくなるのですね。