お別れ

お別れ。

そして新たな出会いを求めて。


 新しい楽器を購入いただいて、この楽器は当店が引き取りました。

 実は1年ぐらい前から、私はこの楽器に限界を感じていました。

 どんなに精密な調整を施しても、正確に演奏者(オーナー)の要求に応えられない。

 演奏者の感性と技術に、楽器の性能が完全に追いつかない状態になっていました。


 演奏者の成長に、この楽器がついていけなかった。



“もう、これ以上は不可能だ!”

 という楽器の切実な声を、私は正確に聞き取っていましたが、それをオーナーに伝えることはしませんでした。


 私が、“この楽器では限界なので、新しい楽器を選びませんか?” と声をかけても良かったのですが、やはり、演奏者自身が楽器と向き合って、楽器の限界に気がつくことが最善であると判断したので、私はオーナーに楽器が限界であることを伝えませんでした。


 演奏者自身が気がつくということと、職人側から提案することは、その演奏者の今後の成長の上でも、大きく〈流れ〉が変わってくるように思います。




 このオーナーは数年前に初めて来店をされて、私は、そこからずっと、この楽器に手を入れてきました。

 繊細に、精密に、オーナーと話し合いを重ね、意見を交換し続けて、〈音〉を作り上げてきました。


 それだけに、この楽器には “あぁ。お前は、これまでよく頑張ってきたな。” と愛おしさも感じます。




 前オーナーの音楽性には応えられなかったからといって、決して楽器として失格なわけではありません。


 この楽器の第二の人生を進めるべく、新しいオーナーを探していきたいと思います。

※この楽器は、すでに売却されています。