〈音楽〉を大切にしているか?

 結局のところ、一番重要なところは『〈音楽〉を大切にしているか?』なのではないか、と。



 良くも悪くも、新型コロナウイルスの騒動で、物事に想いを巡らせる時間は多く作れたものだから、色々と考えるわけです。

 やはり、こんな時期だからこそ『〈商売〉としての職人』と『音楽文化を下支えするための職人』という、この水と油のような二つの立場の在り方は、よく想いを巡らしました。


 当然、当店の売り上げは見事に落ち込んでいて、“さて、持続化給付金の申請でも、しましょうかね。” と、わちゃわちゃと書類を揃えているぐらいですから、やはり職人生活と〈商売〉は切り離せない。


 そんなもんですよ。




 オリエンテというコントラバスのメーカーで修行をしている時は、雇われている身ですから、単純に『腕が良ければ、いくらでも稼げる。』という感覚でしたが、独立して自分で店を経営するようになってから『音楽というものを、どこまで商業的に捉えて良いのだろうか?』と自問自答するようになります。


 正確には、私は演奏家ではないので『音楽というものを利用して、商売をする。』わけですね。


 おまけに、特殊技能なものですから、やりよう(身の振り方)によっては、音楽を利用して地位も名誉も付いてくる。


 “絃バス屋の技術は、神!” などとネットで言われたりするのも、それですね。(※注!!・冗談です)

 まぁ、誰も当店のことを、そのように言っていませんが。





 これまでは、自分自身の感覚としては『自信と慢心の境界線を見極める』ということが重要であると考えていて、それ自体、職人としての歩みの中では確かに重要なことなのですが、『絃バス屋というコントラバス専門店の経営』という歩みに当てはめたときに、ちょっと違う気がしました。




 そこで、さらに思考を巡らして最終的に行き着いたところが、職人にとって最も重要なことは・・・特に楽器に関わる職人たち、弦楽器職人でもギター職人でも、管楽器職人でもピアノ調律師でも、『〈音楽〉を大切にしているか?』という、これに尽きるような、そんな結論に行き着きました。


 『音楽が好き・嫌い』ではなく、『楽器が好き・嫌い』ではなく、『楽器を作るのが好き・嫌い』でもなく、『〈音楽〉というものを、本当に大切にしているか?』が、その職人の『職人としての在り方』の全ての根幹にあるのではないか、と気がつきます。





 『音楽を大切にする』


 それは、『自分(職人本人)の音楽を大切にする』だけではなく、『音楽の〈文化〉を大切にする』でもありますし、仕事をしていく上では『楽器のオーナーの〈音楽〉を大切にする』ということです。




 音楽というものに真摯に向き合って、それを大切にする想いを抱き続けることができれば、自ずと(おのずと)仕事の仕方が決まってくる。




 ただ、残念なことに、厳しいことを申し上げますと、なかなか今の時代の職人は『音楽を大切にする』という意識が薄いようにも感じます。

 経済活動を優先としているか、(職人自身の)自己表現を優先としているか、という傾向が強いように感じます。(もちろん、そうではない職人も存じ上げております。)



 その証拠に、ここ数十年、コントラバスの調整技法は、ほとんど進化して来なかった。


 近年でも、これだけ主流になってきた、電気系の機材を使用した際の楽器の調整技法なども、全く発展していない。



 今(現代)に求められる〈音楽〉と向き合って来なかったという事実が、この結果に現れている。







 ここ一週間ほどで、また世の中が動き始めましたが、音楽業界としては、まだまだ停滞している印象が強い。


 そういう意味では、まだスタートを切っていない状況の中で、今、職人も演奏者も一緒になって『次の時代のコントラバスのある世界』を考え直す良い時期なのかな、と感じます。





 いつも申し上げますように『音楽の文化の流れの中で、不要となれば消えゆくだけ。』というのは、過去の民族楽器などの例を見れば明らかですが、では誰が不要かと言うのかといえば、やはりそれは、楽器を演奏する人々なのです。


 良いものを求めるのも、不要というのも、(修理や調整に)高い技術を求めるのも、この程度で良いと妥協するのも、結局、そのような演奏者の声によって文化は作られ、コントラバス職人は、その中で生きています。



 私たち職人は、確かに常に上を向いて高い領域を目指して精進している日々ではありますが、職人個々の向上心だけでは限界があって、私たちの成長には、演奏者の方々の〈声〉が必要です。







 これからの時代、音楽のジャンルはさらに多様化していくように思います。


 その一つ一つに真摯に向き合って、演奏者の想いにも一つ一つ向き合って、これまで以上に『〈音楽〉を大切にする』という想いを強めて、コントラバスという楽器と付き合っていきたいと、私は願っています。






 だから結局のところ、職人にとって一番重要なところは『〈音楽〉を大切にしているか?』なのではないか、と。