新品の真鍮(しんちゅう)の糸巻きを、薬品に漬け込んで錆び(さび)させてから使う、というのを、ここ数日やっておりました。
ふと思い立ち、当店の実験&研究用の楽器を改造しようかと。
この技術は、私がオリエンテで修行をしていた時代に、二代目と研究をしていた頃があります。
もう10年以上前でしょうか?
というのも、100年とか、それ以上前に作られた楽器に取り付けられている糸巻きの多くは、痛みも激しく、いろいろな部分に不具合が出ていても、それを騙し騙し(だましだまし)修理しながら使う・・・ということが多いのですが、その新しい糸巻きに交換しない理由の一つに、『古い楽器に、新品の糸巻きを取り付けると、なんか見た感じのバランスが悪いよね。』ということがあります。
そこで、その昔、オリエンテの二代目と “新品を、わざと古く見えるように加工したら、良いんじゃね?” と研究したわけです。
これなら、『古く見えるけど、機能は新品。』というわけですね。
ただ、これを普及させなかったのは、圧倒的に手間がかかるからです。
まず、新しい糸巻きに施されている(ほどこされている)メッキを剥がします。
これ、薬品などでは落ちませんから、ひたすら磨き上げて、メッキを落とします。
次に、薬品に漬け込んで、状態を確認しながら、錆びるのを(数時間)待ちます。
そして、錆びついた糸巻きを引き上げて綺麗に水洗いをして、乾かしてから、また磨き上げて完成です。
何が面倒くさいって、最初と最後、ひたすら磨くことですね。
しかし、現在はともかく、これから30年とか40年とか先に、古い楽器に取り付けられていた糸巻きが、本当に、どうしようもなくなった時は、やはりこういう技術で加工された糸巻きを使用することも、一つの選択肢となり得ると思います。
確かに、現在でも海外の糸巻きのメーカーからは、ちょっと古く見せかけた糸巻きなども販売されていますが、工業製品の中で作られたものよりも、一つ一つ手をかけて作り上げた糸巻きの方が、均一さが無いだけに、それが〈古さ〉というもののリアリティを感じることができます。
いそいそと楽器に糸巻きを取り付けているときに、店に入ってきた女房が苦笑をしながら、“それ、〈仕事〉になるの?” と言います。
う〜ん、ちょっとこれは、うちの店では〈仕事〉にならないかな、と思います。
作業工賃、半端ないぐらい高額になりそうなほどに、作業量が多いです。
ネタとしては、かなり面白いとは思いますが・・・
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