研ぐ その3

 打ち刃物(大工道具など)に興味のある方ならば、 “絃バス屋の職人は、さぞ高級な天然砥石を使っているのであろう。”  と思うかもしれませんが、私は天然砥石は使わず、人造砥石を愛用しています。

 砥石には文字どおり天然石の『天然砥石』と、人工的に作られた『人造砥石』の2種類があります。  ざっくり言えば、基本的に天然砥石は高価ですが、そこは天然だけに品質も色々です。  逆に人造砥石は比較的に安価で品質も安定しています。  性能的には近年の人造砥石の開発は凄まじい(すさまじい)もので、中途半端な天然砥石よりも高品質ですが、究極的な話となると、まだまだ最高の天然砥石には勝てないようです。      私が天然砥石ではなく人造砥石を愛用するのは、一つの理由として、一度に研ぎ上げる刃物の数と種類が多いということです。  写真に写っているのが、今回、研ぎ上げたものですが、京都での修行時代には、毎日のように、これの2倍以上の数の刃物のを一度に研ぎあげていました。  その頃の作業時間は、だいたい1時間半から2時間ぐらいでしょうか?  こうなると、とにかく砥石の減りが早いので、あまり高価なものは使えません。

 人造砥石には大きく『荒砥』『中砥』『仕上げ砥』の3種類があり、通常は中砥と仕上げ砥の2種類を使います。  この砥石を構成されている成分で、研ぎ上げた時の『味』が変わります。  いわゆる一般的にいうところの『切れ味』では、ありません。  刃物で木を削った時に指先に伝わってくる感触、それが『味』です。

 これまでの経験からいうと、基本的にセラミックなどの硬めの成分で作られた砥石で研ぎ上げた場合、硬めの味になるようです。  それは、最終的な仕上げ砥だけの話ではなく、その前段階の中砥の性質によっても『味』は変わります。  そこで私の場合は、数種類の砥石を組み合わせを、刃物の種類によって使い分けています。

   普段、ほとんど砥石の組みわせを変えることはないのですが、今回は、ちょっと自分の中で『流れ』を変えたいと思ったので、調整用の鑿(のみ)の最終研ぎを、普段よりも柔らかい味の出る砥石に変えました。  通常は非常に硬質で、ザックっと切れる感触の砥石を仕上げに使いますが、今日使ったものは、材に吸い付くように切れる味のある砥石を使いました。      まぁ、この調整用の鑿は絶対に他人に使わせることはないので、砥石を変えようが、刃の研ぎの角度を変えようが、誰も気がつかないのですが、 “職人さんも、日々、色々と微調整をしながら仕事をしています。”  っぽいことを、紹介してみたかったので、ネタにしてみました。

 コントラバスを演奏する方々が、あれやこれやと試行錯誤しながら楽器と向き合っているように、私たち職人も、日々、道具たちと向き合っています。

 おまけの写真は『砥石に貼り付いて倒れない鉋(かんな)の刃』です。  こういう芸は、どちらかというと硬質の砥石の方が、やりやすいですね。