楽器店を渡り歩くのは良いことなのか?

“楽器の調整で、色々な楽器店を渡り歩くのは良いことなのか?”

 という質問を受けることがあります。


 これは “なかなか気の利いた答えが見つからない。”というのが、本音かな、と。




 演奏者からすれば “より良い調整を。” と、いくつかの楽器店を訪れて、楽器の調整を依頼することは不思議なことでは無いですが、そうやって幾つかの楽器店を渡り歩いてきた楽器を診た(みた)時に、全体的な調整が〈チグハグな感じ〉を受ける時が多いです。


 ある店で『魂柱に、ちょっと手を入れて』、また他に店で『駒に、ちょっと手を入れて』から、さらに他に店で『また駒に、ちょっと手を入れて』を繰り返していくと、調整作業の〈統一感〉というものが失われて、結果的に楽器の鳴りが悪くなります。




 楽器の調整というものは、(魂柱の調整から始まって)駒を新しく立てるところから、すでに調整作業の一部に組み込まれています。

 駒の足の裏を削って、表板の曲面に合わせる作業の時から、『この楽器は、どのように響かせようか?』と計算しながら、駒は作られていきます。





 他店で調整をされてきて、ご縁があり当店にやってきた楽器を調整する時には、まず、駒の削り方を確認して『この駒を立てた職人は、何を意図して作業したのか?』を探ります。


 そこから、そもそもの楽器の個性と、これまで調整をしてきた職人の意図を尊重しながら調整をする。

 そうしないと、どうしても音色に、不安定な〈チグハグな感じ〉が出てしまう。





 当店の、まだ20代の若い本職の常連さんたちには、“若いうちに、ウチ以外の色々な店を経験しておきなさいよ。” などと声を掛けるものですが、自分の楽器の調整が自分の演奏に合うか合わないかは、その店で調整をして実際に音楽の現場で使用してみなければわからないものですから、そういう経験は、若いうちに(経験)しておくことは、良いことだと思います。

 その演奏者にとって、必ずしも『絃バス屋が最高♡』であるとは限らないわけですから。



 私にしても、仕事道具の刃物の鑿(のみ)や鉋(かんな)などは、幾つかの鍛冶屋の製作したものを使ってみて、何年も時間をかけて、最終的に今の鍛冶屋の刃物に落ち着いています。





 ただ、やはり重要なことは、調整の統一感。


 すなわち、それは楽器の音色の統一感に直結しているのですから、信頼できる一人の職人に任せることができれば、それが最良かと思います。