本当ですか?

 “『よく鳴る楽器ほど、ウルフトーンが出やすいって、本当ですか?』”  という質問は、多く受けますし、それほどウルフトーンに悩んでおられる演奏家が多いことに、驚いています。

 先に私なりの考え方を申しますと、『よく鳴る楽器ほど、ウルフトーンが出やすい。』という答えは、少し乱暴のような気がします。  これまでの経験からすると、『よく鳴る楽器』であっても『鳴らない楽器』であっても、それに関係なく、ウルフトーンが出るときは、出ます。  もっとも『よく鳴る楽器とは何か?』という話になると、これまた難しくなるので、そんな話は、そのうち・・・。      不思議なことに、私がオリエンテで楽器製作をしていた頃、それこそ年間で500本近い楽器を作っていましたが、最終調整段階で『ウルフトーンが酷くて、手に負えない。』という楽器には出会った記憶がありません。  それが、冒頭の『それほどウルフトーンに悩んでおられる演奏家が多いことに、驚いています。』という言葉になるのですが。    そして絃バス屋を開業させていただいて、様々なオーナーの楽器と触れ合う機会を与えられ、その中で思い至ったことは、おそらく、ウルフトーンが出る要因の大きなものには『駒の削り方』があるように思います。  どうも、基本的に(楽器を正面から見たときに)駒の表面の厚みが右から左にかけて均一(左右対称)であれば、それほどウルフトーンが目立って出てくることは無いようです。  そう考えると、オリエンテの出荷段階での駒は、職人たちが長年の修行で身体に叩き込まれた技で一気に仕上げるのですから、まぁ・・・精密機械で仕上げているようなもので、どれも同じように均一に仕上げるとは容易で、結果的にウルフトーンが出にくい状態になっているような気もします。  あくまで私の経験上での話ですが、ウルフトーンの大きい楽器には、駒の厚みが妙な部分が厚かったり、逆に妙な部分が薄かったりと、駒の削り方のバランスが悪い楽器が多いように思います。  もちろん、そもそもの楽器の性格、個体差もありますので一概に言い切れるものではありませんし、楽器の鳴りによって音のバランスを整えるためにも駒を削るわけですから、完全に左右対称の駒などは実在しないわけですが。      もう一つ、過去に表板が割れてしまって修理された楽器、これもウルフトーンが多いような気もしますし、このような楽器の場合には、ウルフトーンを消すことは非常に難しいです。  コントラバスの場合、以前、動画で紹介しましたが、音を出す音域によって明確に振動する場所が違うわけで、そのあたりを狙ってバランス良く削り上げて製作するものですが、表板を割ってしまい修理をすると、楽器の内側に(再び割れることを防ぐ)補強材を入れる必要があり、どうも、それが原因で表板の振動のバランスが崩れることになり、ウルフトーンが出てしまう場合も多いようです。    コントラバスは、基本的に3弦・Aの音が鈍くなりがちですが、それが必ずしもウルフトーンに直結するわけでもないようですし、3弦の音が鈍くなる傾向に対しても、駒を適切に削ることで、かなり対処できます。  しかし、過去に表板を大修理された楽器の場合のウルフトーンは、表板の振動の仕方が不安定になるので、独特の共振を起こすことになり、様々な音域の共振を聞き分けて適切に対処する必要があり、ウルフトーンを消すには非常に難易度の高い作業になります。    そう考えてみると、100年以上前に作られた古い楽器などは修理の痕跡がない楽器を見つけることの方が不可能に近いわけで、そうなると『古い楽器=よく鳴る=ウルフトーンが出やすい』という話は納得できます。        とにかくウルフトーンに関しては、オーナーの演奏の癖によっても鳴り方も違ってくるので、信頼できる弦楽器専門店と時間をかけて調整を重ねて消していく以外に方法はないかと思います。