もし、この時期に、時間を持て余している若い職人に、何かを伝えるとしたら・・・とにかく『刃物を完璧に砥げるようになりなさい』ということかしら。
刃物というものは面白いもので、適当に中途半端な研ぎ上げの場合には、良い刃物も悪い刃物も、それほど切れ味は変わらないもので、逆に完璧な技術で研ぎ上げた時、良い刃物と悪い刃物の能力の差はハッキリと出てくる。
無駄に格好つけて、質の悪い天然砥石などを購入する必要はありません。
今の時代、まともに使える天然砥石は軽く10万円を超えます。
それよりも、質の良い人造砥石を使いましょう。
無駄に天然砥石を買って喜んでいるような意識では、その職人に成長はありません。
私はオリエンテでの修行時代には、ほぼ毎日のように自宅で1時間半から2時間をかけて、仕事道具の刃物を研ぎ上げていました。
切り出し小刀、繰り小刀、台鉋、平小鉋、丸小鉋、突き鑿、叩き鑿、内丸鑿、外丸鑿・・・全て研ぎ方が違います。
鋼の種類、鋼の硬度によっても、使用目的によっても、刃の角度、研ぎ上げ方が違ってきます。
今、この良くも悪くも時間のある時に、徹底的に研ぎの技術を身につけることは、この先の職人人生において大きな財産になります。
研ぎの技術の習得は、地味で非常に忍耐を必要とし苦しいものです。
誰かに教えられて身につくものでもありません。
自分で考え、試行錯誤しながら身につける以外には、習得の道はありません。
ただ、職人にとって、身体に刻み込まれた記憶は消える事がありません。
刃物は研がなければ、切れません。
刃物は砥げなければ、切れません。
仕事の中で、使用する道具の刃物が切れなければ、今は良くても、必ず(職人としての)成長が止まる時が来ます。
この苦しい時代を生きる若い職人たちの武運と健闘を祈ります。
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