初めて調整にやってきた楽器の駒を見て、その楽器の音も聴かずに “これはD線(2弦)とA線(3弦)の音が鈍いという問題がありますね。” と指摘をすると、オーナーから驚かれる。 それは余興のようなもの。 コントラバスという楽器は、駒の削り方を見れば、実際に音色を確認せずとも、ある程度の音色の傾向の予測ができます。 写真のように、駒の中央部分が盛り上がるように削られた駒の場合は、D線(2弦)とA線(3弦)の音が鈍くなる。
そして、E線(4弦)とG線(1弦)の付近が薄すぎる場合には、音に響きが少なくなる。 D線(2弦)とA線(3弦)の振動伝達経路付近が厚いので、弦振動を効率よく表板へ伝えられない。 すなわち、弦の振動が表板へ逃げきれずに、弦の方へ戻ってしまうことでウルフトーンになる。 そう、このような駒の削り方は、ウルフトーンを発生させる要因の一つでもあります。 茶木絃楽器(Chaki)の始まりから70年を経て、日本のコントラバスの製作技術というものは非常に高いものになりましたが、コントラバスの調整技術というものは、いまだに未発達のような印象があります。 1番の原因は、職人の努力が足りない。 そして、演奏者の意見を聞かなさすぎる。 演奏者がコントラバスに求めるものは『弦4本の音量が揃う。そして弦4本の音色が揃うこと。』まず、それ。 それが〈需要〉であることを、職人側は理解すべきだし、まず、それに対して技術を磨くべきだと感じます。 50代・60代あたりのベテラン演奏者と話をしていると、“鳴りの不安定な楽器は、自分の演奏技術で対応するのが当たり前だった。” と多くの方々に言われました。 それはすなわち『コントラバス職人が何もしない責任を、演奏者に負わせ続けた。』という結果です。
職人たちが楽器の音色を安定させる技術を習得する修練を放棄したために、その対応を全て演奏者に押し付けた。 演奏者が『弦4本の音量が揃う。そして弦4本の音色が揃うこと。』を求めていたのは、昔も今も変わらないと思います。 私としては、コントラバス職人が、演奏者からの〈需要〉に応えることができなければ、近い将来、コントラバスの文化が崩壊していくという不安を感じます。 こんな歪な構造は、必ずどこかで破綻をする。 そんな考察も、近いうちに投稿しようかと考えていますが…。 なかなか悩ましいですね。
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