心境の変化

 世の中が動き始めまして。    なんでしょう・・・『with コロナ』という言葉とともに、やはり感性の上澄みのような世界に勢いよく飛び出した人々もあって、“きっと、この業界(総じて音楽業界)も、この波に飲まれていくのだろうな。” と半ば諦めの境地で眺めていたりして。      やはり声の大きい人は強い。  派手なパフォーマンスも、強い。    それが〈世の中〉を牽引して、いわゆる勝ち組になる。  経済も回る。      “結局、やはり根本的な部分は何も変わらずに、突き進んでいくのかな?” と苦笑するものですが。        まぁ、『音楽』というものは〈商業〉と〈芸術〉の両輪があるわけですから、一概に否定もできず、なかなか悩ましいところです。          ただ、今回の緊急事態宣言で、世の中が停滞してしまったときに『職人として、何をしてきたのか?』というのは、今すぐに影響は出なくとも、時間が経つほどに、じわじわと効いてくるのかな、と感じます。      かく言う、当店は『あえて、何も変化をさせなかった。』といったところでしょうか。    特に臨時休業もしませんでした。  時間短縮営業もしていません。    Facebookも、いつも通り、毒にも薬にもならない記事を投稿し続けました。        『結果的に、(何かを)変えることができなかった。』というところが、本音でしょうか?    う〜ん、鬼平犯科帳(池波正太郎)の長谷川平蔵の言葉に “饅頭の餡(あん)が、辛くなることはない。” という言葉がありますが・・・それっぽい、というか。    厳しい親方の下で20年、職人生活は25年もやっていると、ここで右往左往するのも珍妙ですし『〈何も変えない〉ということを貫く』という方が、意味があると思いました。    だから結果的に『変えることができなかった。』というところが、本質のように思います。            ただ、一つ変化があるとすれば、『若い職人たちに、何かを伝えよう』と思ったこと。    しばらく前から、私の技術的なことをFacebookにて公開していて、あまりの難しさに、常連さんたちからも “専門的すぎて、理解できない部分がある。” とまで言われてしまいましたが、それまでは、元々が、私と同じように『人生の色々なものを捨て去って、20年ぐらい、文字通り、死ぬ気で修行をすれば誰にでも身につく程度の技術。』だと思っているわけですから、“若者、がんばれ。” といった感じで無関心な部分もありましたが、いざ、この店が『いつ廃業するか?』といった状況になると、不思議と “伝え残せる技術は、伝えておこう。” といった感覚になりました。        面白いもので、こうやって危機的状況になると、自然と『継承』の二文字が、頭の隅から、むくむくと思い起こされてきます。    おそらく、この感覚は業種に限らず『伝統工芸士』という位置で立っている人間であったり『伝統を受け継ぐ職人(料理人など)』、それこそ本物の『師弟関係』というものを心に刻んでいる職人の自然な感覚かな、と思います。

     私自身、例え、私が絃バス屋を立ち上げてから、一人で研究をして身につけた技術であっても、元々は、オリエンテでの20年間の修行時代が礎(いしずえ)となっているわけですから、親方からの〈継承〉があったからこそ、今があるわけで、やはり、私一人の気まぐれで、何も残さずに絃バス屋を消してしまうことは、私にとって、私が親方の顔に泥を塗ることと等しい意味を持つことになります。    それが〈受け継いだ者〉の責任でもあります。    『伝統の継承』とか『師弟関係』とか『修行』って、本当に、色々と面倒くさいのですよ。    古くさいですね。  厭(いや)になりますね。                だから、ここから学ぶか、学ばないかは、若い職人たち、本人次第ですし、そして私の技術が〈正統〉であると主張するつもりもありません。    これは、私個人の、一方的な都合です。              とはいえ、それでも “何か伝えておかないと、ダメな気がする。” と、実際に今回の騒動で感じたし、その意識が強くなったのは間違いないかな、と思います。      だからといって “じゃぁ、弟子でも採り(とり)ますか?” とは全くならないわけで『それは、それ。』という感じの別問題ですが。                  今回の騒動の中で、私が、わりと積極的に『教えても良いかな。』と思ったのは、自分の中で大きな変化かな、と思います。        こうやって少しずつ世の中が動き出して、もっと気軽に動ける時が来たら、希望があれば、実技を見せて指導しても良いかな、とは思いますが、結局のところ、それは若い職人たち、本人次第の気持ちですね。

 そこは、彼らの積極性に期待します。          多くのコントラバス職人が、ウルフトーンを消せる技術を身につけることができれば、コントラバス業界、けっこう変わると思いますけど・・・どんなものでしょうか?          

   もっとも、『半年後に絃バス屋が廃業♡』なんてことは否定できない状況ではありますが。  それは、それということで。      いつも申し上げますように、世の中(コントラバス業界)から不要とされたら、廃業するだけですから。    そう考えると、遅かれ早かれ、ダメな時はダメ、ですよね。