弦高は、どこまで下げられるのか?

『弦高を下げると、楽器の鳴りは弱くなる。』というのは、ある意味、事実であり、ある意味、事実ではなく。

 楽器の調整というものは単純に弦高だけで音が決まるわけではなく、様々なことが重なり合って、最終的に『楽器が、よく鳴る』という状況を作り上げられれば良いわけで、そのあたりは “弦楽器職人としての、腕の見せどころなのかな?” と考えています。


 こちら、常連さんの楽器。

 初めてご来店いただいた時点で、かなり弦高が低い状態で調整されていたのですが、『さらに弦高を下げつつも、楽器の鳴りを維持できるのか?』という依頼でした。

 そもそも、私の場合は、弦高が通常の楽器と弦高が少し低い楽器では、駒の調整方法は微妙に変えていますので、最初は、その技術の応用で対応できました。


 ところが・・・オーナー様、東京都内のとある楽器店で、アトリエZの『URB-Realist』を試奏してしまいました。

http://www.atelierz.co.jp/product/urb/index.html

 『URB-Realist』は、オリエンテが製作しているのですが、その弦高は極限まで下げられ、異常なまでに精密に指板は作られています。

 そして、その精密な指板を作り上げる技術は、オリエンテの二代目が、(楽器の開発当時)その技術の習得のために、毎晩のように夜中の2時・3時まで仕事場に籠って(こもって)指板を磨き続けていたことを、私がオリエンテでの修行時代に知っています。“また寝てないの?” とか笑いながら。

 そして、この写真の楽器のオーナーから、

“オリエンテの二代目ができるのだから、絃バス屋さんも、できますよね?”

 と言われてしまい・・・『できない』わけではないので、依頼を受けました。

 別に世の中のコントラバス職人と比較されようが何とも思いませんが、しかしながら、いつも一緒に修行していたオリエンテの二代目となると、ちょいと話が違うわけで・・・。

 なんでしょうね、正直なところ、二代目のことは心から尊敬も信頼もしていますが、どこか “彼には、負けたくない!” って思うところが、私の中の無意識にあるのでしょうね・・・・・・。



 ということで、この楽器の弦高は指板の終わり(一番下)の部分で、『1弦・2.5mm』『2弦・3.5mm』『3弦・5mm』『4弦・5.5mm』で仕上げました。

 もはやエレキベース並みに低い弦高ですが、これでも一般的なコントラバスとあまり変わらない音量は確保してありますし、当然、弓で弾いても問題はありません。

 『弓で弾ける』は、コントラバス職人としての意地です。



 コントラバスというものは、あくまで『楽器』であり、『楽器』とは演奏者の『無意識の意識』『声にならない声』を音として具現化する道具であります。

 そして、その表現に必要なことが『弦高を下げる』ということであるのであれば、弦高を下げれば良いですし、それでも確実に楽器の鳴りを維持できる状態を望むのであれば、そこは私たち弦楽器職人が知恵と知識と技術と経験を活かして、その楽器の音を作り上げていけば良いのかなと思います。



 もっとも『無理なものは、無理。』と言う時は、言わせていただきますが・・・。