フラットバック

 コントラバスの裏板の構造には大きく2種類があって、表板と同じように膨らみを持たせた『ラウンドバック』と、ギターのように平面の『フラットバック』という形状があります。  現代において製作されるコントラバスの多くはラウンドバックですが、『フラットバックは一般的ではない』と言い切るほどの少数派でもありません。  フラットバックはランドバックに比べて、裏板の材料費が安く抑えられて、製作時間も短縮できるので、作る側としては “けっこう、(体力的に)楽ができるね♡” と思ったものですが、構造としては、ラウンドバックもフラットバックも、それぞれ複雑です。    ラウンドバックとフラットバック、その由来に興味ある方はネットで検索していただくとして、今回は、フラットバックの調整についての、お話。      フラットバックの裏板の厚みは、5mm〜7mmほどです。  この裏板の厚みが、楽器の鳴りに大きく影響するのですが、だいたい15年ほど前までは5mm程度の板の厚みが(世界的に)主流で、それ以降、現在は7mmほどに少し厚みが増しているようです。  確かに2mmの厚さを増せば強度的には、かなり効果的ですが、明らかに楽器の鳴りが鈍くなってしまうので、個人的には好ましく思っていません。      フラットバックには、楽器の内部(裏板の内側)に補強材を貼り付けます。  この部材は、表板と同じスプルースですが、厚みは13mm〜15mmです。  写真のように、魂柱が立てられる補強材は15mmで、それ以外は13mmで。  これもまた、それ以上に厚くすることは強度的に無意味で、楽器の鳴りを阻害(そがい)する上、裏板が乾燥や湿度で微妙な変化をした時に、分厚い補強材では裏板の歪みを無理矢理に抑え付けてしまい、強度の弱い部分が割れてしまいます。  必要最低限の厚さに抑えておけば、多少、裏板が乾燥や湿度で動いてしまったとしても、裏板の動きに補強材が付いていくので、裏板が割れたり、剥がれて(はがれて)しまうリスクも回避できます。  そもそも、表板で魂柱が当たる周辺の厚みは、11mm〜13mm程度なのですから、補強材に15mmの厚さがあれば『裏板(5mm)+補強材(15mm)=20mm』なので、充分に『軽く100年は対応できる強度』というわけですね。  ちなみに、私がラウンドバックの裏板を製作するときは、魂柱が当たる周辺は10mm〜11mmで削りあげていますから、それを考えても、補強材の15mmということの妥当性は見えるかと思います。

   さて、そのような構造的なことを考えた上で、楽器を調整していきます。  コントラバスの特徴でもある独特な低音の響きは『どう裏板を鳴らすか?』が勝負どころです。  構造的に違うのですから、ラウンドバックとフラットバックで同じような調整方法は不可能です。    私はラウンドバックのコントラバスを調整する時に、低音の響き方は、コンサートホールにあるような、大きなグランドピアノの低音域の鳴り方を参考しています。  グランドピアノの低音域は、大きく開け放たれた反響板よりも、むしろ楽器の真下の床に音を叩きつけて全方位360°に音を飛ばします。 ラウンドバックのコントラバスの低音域は、それに近いイメージで調整をすると、全体的にバランスよく音が作れます。      では、フラットバックは、どうしましょう・・・?  と、悩んだ末に行き着いたイメージは・・・“ん? 構造的には、パッシブラジエターが近くね?” ということです。   おそらく多くの人が “・・・?!” だと思います。オーディオ世界の話です。    オーディオや楽器用のアンプのスピーカー部分でも同じですが、一般的な構造に『密閉型』と『バスレフ型』がありますが、その他にも、あまり有名ではありませんが『パッシブラジエター型』というものが存在します。

 『低音』ということを考えたときに・・・ ・密閉型というものは、スピーカーユニットの性能に依存しています。

・バスレフ型というのは、スピーカーユニットの振動によって箱の中の空気が動きますが、その空気の動きを利用して、ある計算式を使用して最適な大きさの穴を箱に開けることで、狙った周波数帯の低音域を増幅することができます。   ・パッシブラジエター型とは、その両方の中間のような構造で、箱の穴を開け放す代わりに、開けた穴にゴムの板などを貼ることで、箱の内部の空気振動を増幅ではない形で、どちらかというと『箱の内部の空気振動を、そのまま外部に伝える』という役割があります。      パッシブラジエターは、バスレフに比べて〈じわり〉と低音が響きます。  そこで、“フラットバックという構造を考えてみると、パッシブラジエターを意識して音を作ってやれば、楽器の響きは、その個体が持つ本来の自然な音になるのではないか?” と考えました。    一般的に『フラットバックの裏板は鳴らない』というイメージがあり、実際、楽器の後ろに立ってしまうと、なかなか音程が聞き取りにくいものでしたが、パッシブラジエター方式で裏板を鳴らしてやると楽器全体が響くので、音程も聞き取りやすくなりました。  いくつかの楽器で調整をして、同じ結果が得られましたので『新しい調整技術が確立された』と言ってしまっても、問題ないかと思います。    私自身、実は、あまりフラットバックの音の響き方は好きではありませんでしたが、この調整方法で鳴らしてやると、低音の響きが心地よく、“フラットバックも面白いかも。” と思いました。      楽器の調整技術というものは、考えても考えても、飽きないものですね。