『コントラバスの3弦は鳴りにくい』ということは定説で、実際、鳴りにくいからこそウルフトーンなどの障害も発生するわけですが。 私も経験から考えると『定説』というよりは、楽器によって個体差はあるとはいえ『事実』と言い切っても良いレベルなのかな、と思うわけで。 これまで、ずっと “これは単純に、コントラバスという楽器の構造的な問題なのか?” と悶々(もんもん)と考えてきたものですが、しばらく前に、じぃ〜っと駒を眺めていた時に、気がつきます。 “3弦の振動の経路を少し変更したら、どうだろう?” そこで、通常、楽器構造的に(自然に)3弦の振動は、写真の矢印Aの方向に走っていくのですが、そこをあえて、駒の調整によって、振動の一定量を矢印Bの方向へ走らせてみます。 予想通り、3弦の音に輪郭と響きが加わりました。
そこから、いくつかの楽器で同じように振動を誘導してみると、同じ結果が得られました。 “言われてみれば理解できるが、こりゃぁ、盲点だったな。” という感じでしょうか? (誰にも指摘はされていませんが・・・) 私の調整作業でも、ほとんど矢印Bの方向へ振動を逃した経験は、これまでありませんでした。 結局、3弦の振動の経路が矢印Bの方向だと、終着駅である楽器の表板に対して、(振動の)走行距離が長いわけで、『距離が長い=振動伝達に時間がかかる=発音が遅くなる』ということですから、そこに振動を流すことにはリスクが生じるわけです。 だから、本来は矢印Bの方向には振動を流さないというのが理想です。
しかし、そこは上手くバランスを考えながら、矢印Bの方向へ振動を流すと、3弦の鳴りを改善できる、ということですね。 けっこう技術力の必要な『劇薬』っぽい方法な気もしますけど。 楽器の調整の世界、やっぱり奥深い。
