オールド コントラバスと、カメラのオールド レンズと。 コントラバスの世界と、カメラの世界。なんだか似ているな、というお話。 連休も終わりが近づいてきたので、そんな軽めのネタを。 カメラの世界では、特に明確な定義はないのですが、一般的に30年以上前のフィルム時代のMF(マニュアル フォーカス)のレンズを『オールド レンズ』と称しているようです。 もう、最近では『オールド デジカメ』などという言葉も出始めていますが・・・。 さて、オールド レンズは10年ほど前に、フィルム時代のレンズを現代のデジタル一眼レフに取り付けて撮影する、というのが流行しました。 ところが、当たり前ですが何十年も前のカメラのレンズが扱いやすいはずもなく、その流行は、あっという間に廃れ(すたれ)ます。 そして今では、マニアックな人々の間で、ひっそりと使われています。 えぇ。絃バス屋のFacebookでは、普段からオールド レンズで撮影された写真が投稿されています。 (投稿される写真の、ほとんどがオールド レンズで撮影された写真です。) 写真2枚目も、それ。 というわけで、もう見慣れてしまっている方も多いかと思いますが、全般的にオールド レンズの特徴といえば、現代のレンズに比べて、描写が甘く優しい印象になります。 悪くいえば、鮮明さに欠け、解像度も悪く、色合いも(被写体に対して)忠実ではない、という。 この写真に写っているカメラに搭載されているレンズは、1960年前後に製造されたものですから、ざっと60年前のレンズです。 とにかく、使い勝手も、実際に撮影された写真の描写の癖も、何から何まで、現代のレンズとは違います。 写真2枚目が、それ。 私の場合、写真も映像も、ほとんどが30年以上前に製造されたレンズを使用して撮影していますから、もはや、あれこれ語るべくもなく、オールド レンズを使用すると、あんな感じに仕上がります。 オールド レンズの、その独特な世界観は、やはり現在のレンズでは出せません。 一応、デジタル技術の発達で、『オールド レンズで撮影したっぽいもの。』という写真や映像もありますが、見る人が見れば、判別できます。 結局、それは撮影する人間の『世界観』が、レンズを通しての表現に直結しているからです。 そう考えたときに、現代の新しく製作されたコントラバスと、古い、製作されて100年近く(もしくは、それ以上)経った楽器との違いも、オールド レンズの立ち位置に似ています。 オールド レンズもオールド コントラバスも、総じて『設計が甘い』とか『現代の感性の主流ではない』とか、『状態が悪い』とか、単に『魅力的』という前向きな話だけではなく、様々な〈欠点〉も抱えています。 そのような『癖の強いもの』を扱う場合、オールド レンズもオールド コントラバスも、やはり現代の環境に合わせて、最低限の調整を施していく必要があります。 でも難しいところは、その『〈最低限〉の見極め』で、その見極めを間違えると、単に扱いにくいものになってしまったり、逆に、現代的に寄せすぎて、せっかくの古き良き時代のものの〈味〉を失ってしまいます。 レンズもコントラバスも、その『現代の環境に上手く適応させられるのか?』が調整の上で肝になり、カメラの話であれば、ほぼ100%使い手の知識や技量に左右されますが、コントラバスに関しては、かなりの多くの割合が、コントラバス職人の調整技術にかかってくると思います。
古き良きものを現代に活かそうと思った時に、調整をせずに『自分(使い手)が好きなのだから、それで良い。』という価値観も決して否定するものではありませんが、やはり、そこに表現の〈深さ〉は生まれてこないと思いますし、結果的に、使用者(演奏者・撮影者)が、表現者として、己の内面の『無意識の意識』という、ある種の究極の領域を、作品の中に滲み出させることは難しいと思います。 結局、いつもの話になりますが、楽器にしてもレンズにしても、そのものとの〈距離感〉というか、関係性というか、最終的には使用者と〈それ〉との信頼関係を深めていくことが重要なのかな、と思います。

