以前、業種は違いますが、とある職人仲間と話をしていた時に、 “『できない、とは言わない。』という姿勢を、どう思うか?” という話題になりました。 結論から先にいうと、 “そういうことが言えるのは、超一流の職人だけだよね。” という答えが導き出されたわけで。
私などは、修理などの依頼を持ち込まれたオーナーには非常に申し訳ないとは思いますが、無理なことは、ハッキリと無理と言わせて頂いています。 確かに『できないとは言わない』という姿勢は職人として格好いいですが、身の丈に合わない依頼を受けるということは、その楽器の使い手(オーナー)に対して大きなリスクを負わせてしまうことになります。
しかも、そのリスクの大きさを相手に伝えることなく。 そういうところが、どうも職人と演奏者の立場が対等ではない感じがして厭なのです。
昔から、なんとなく、この業界って『職人が偉い? 演奏者が偉い? どちらが偉い?』みたいな雰囲気を感じる時があって、それには違和感を感じています。
私は、演奏者との関係は、あくまで楽器を通して対等でありたいと思っていて、調整や修理に関する方向性(手順)なども、演奏する立場の人間として、修理する側の立場の人間として、お互いに意見を出しつつ、その楽器に最適な落としどころを見つけるように心がけています。
いやホント、『できない、とは言わない。』と言うことができれば格好いいのですが、生憎(あいにく)と、私には、そういうハッタリを言う度胸はないです。
もし無理に修理を受けて失敗してしまったら、使い手に申し訳ないのは当然ですが、その楽器の〈寿命〉を縮めてしまったことの罪悪感に、自分は耐えられるかな・・・とも思うわけでして。