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あのグリガ、とりあえず完成。

 そう。〈あの〉グリガです。(記事下のダグで検索してみてください)

 


 

 なんでしょう・・・記事として書きませんでしたが、この楽器、至る所(いたるところ)が歪んでいて、前オーナーが “よく表板とか裏板が、剥がれる(はがれる)んですよ。” と話していらっしゃいましたが・・・ “そりゃぁ、剥がれるよね。” という次元のものでした。

 

 

 できるだけ歪みを修正して組み上げましたが、実際問題、しばらく様子を見ないと、あまり自信はないです。

 

 

 というわけで、“使いながら様子を見て、『壊れたら、直す。』を何度か繰り返せば、そのうち落ち着くだろう。” と気長に付き合っていきます。

 

 そういうわけで、これで完成というわけでもなく、この楽器には、これから当店で頑張って働いてもらわなければならないので、とりあえずサンプルとして、指板にポジションマークを埋め込もうかな、と。

 

 あとはピックアップを何か取り付けた方が良いのかな、とか。

 手を入れる箇所は、まだまだ残っていますが、とりあえず、通常の調整作業(調整作業動画のような、あれ。)も完了しましたので『楽器』としては成立しています。

 

 

 

 今回の主な作業内容としては、こんな感じで。


【表板 割れ修理】

 元々は、この修理依頼でご来店いただいたのですが・・・。

 

【表板 削り直し】

 あまり、作った職人に対して申し訳なく思うので、このようなことは公表しないようにしているのですが、今回は、総じて『あまりに酷い仕事っぷり』でしたので、公表させていただきます・・・。

 

 先日、グリガというメーカーのコントラバスの板の厚みの削り出しが中途半端であることを指摘させていただきました。

 

 表板の割れを修理して、そのまま戻しても良かったのですが、思い切って削り直してしまいました。

 

 薄くすべきところは薄く、厚みを残すべきところは残して。

 とはいえ、この楽器に使用している表板の材は木目が広いので、私がこれまで作ってきた楽器よりも、0.4〜0.5mmほど厚みを残して、ゆったりと響くような設定にしました。

 

 

【表板 バス バー剥がれ修理】

 これがまた・・・今回の表板割れの修理とは、おそらく無関係で、バーが剥がれていました。

 ・・・そもそもが、まともに接着されていない状態でした。

 

 思い切って作り直してしまおうかとも考えましたが、そこまで頑張るのは・・・と、結局、剥がれた部分を貼り直して、少し補強をしておきました。

 

 

【横板 修理】

 えぇ・・・あれです。あれ。

 

 

【裏板 補強材(バー)の軽量化】

 裏板が平面の、いわゆるフラットバックという形式の楽器の裏板には、内部に補強材が貼られています。


 今回、この材を薄く削り軽量化させてあります。

 

 これ、一般的には13〜15mmほどの厚みがあれば、充分に強度が保てるのですが、グリガは17〜22mmと無駄に厚く、これでは弦の振動を阻害してしまいますし、あまり厚すぎると〈しなり〉が無いので、裏板が温度や湿度の変化で少し動いた時に、バーが剥がれてしまいます。



 

 

【裏板 補強材(バー)の剥がれ修理】

 前述の・・・そういうことです。

 

 

【指板 交換】

 指板の形状が悪く、少し削って修正しようにも、どうにも削りようがないぐらい状況が悪かった(薄すぎた)ので、思い切って交換しました。

 今回は、それほど上等な材料の指板を使用したわけでは、ありません。

 

 

【ネック 少し削って修正】

 通常、ネックというものは上の方が薄く、下の方に向かうに従って2mmほど厚くなるように削ります。

 現代では25mm〜27mm程度が標準っぽい(=弾きやすい)です。

 

 ところがこの楽器・・・なぜか上が厚く、下が薄かったです。

 それでは非常に弾きにくいので、少しネックを削ってバランスを整えました。 

 

 

【表板 ハイポジション用 加工】

 こちらは、先日紹介させていただいたネタの通りです。

https://www.facebook.com/genbassya/posts/1317922595012908

 

 

 

【アジャスター チタン製】

 駒のアジャスターにチタン製のものを搭載してみました。

 

 チタン製は非常に軽量ですが、真鍮製に比べて、若干、硬めの音色になる傾向があります。

 

 

 アジャスターを付けずに済むのであれば、それが良かったのですが・・・この楽器、ネックの仕込みの角度が悪く、一般的な駒では合わないぐらい、指板の終わりの部分の高さが低くなっています。


 そのままで普通の駒を使用しようと思っても、ネックが低すぎて駒が合わない(駒の背が高すぎる状態)ので、『アジャスターを付けるときに強引に短足にしてバランスを取る。』という荒技で対処しました。

 

 

 なぜに、ネックの仕込み角度を間違えるかなぁ・・・・・・。

 ちゃんと、接着する前に確認をしましょう。

 基本です。

 

 

 ちなみに、このネック仕込みの際に斜めに組み込まれてしまったので、楽器を正面から見た際に、右側に傾いています。

 

 それでは駒を立てる際に楽器の中心が取れないので、指板を貼る際に、微妙に左に傾けて貼り付けることで、バランスを取っています。


 大丈夫です。演奏する人は全く気がつかないぐらいに、バランスをとりました。

 

 

 

【糸巻き 錆(さび)加工】

 糸巻きのメッキを剥がして、薬品に漬け込んでの錆加工。

 今回は少し明るめに仕上げようと思ったのに・・・いつも通りの破壊力。

 薬品に漬け込む時間は、もっと短くて良さそうです。

 

 でも、取り付けてみたら、案外、色味のバランスも良いので、問題なし。



 

 

【弦 Presto Jazzicato Tungsten】

 Presto のナイロンワウンドは当店の実験の楽器に張ってありますので、こちらには試奏用にタングステンの弦を張ってみました。

 

 

 

 

 そんなこんな、色々と手を入れてみましたが、最終形態は、もう少し先になりそうです。

 

 

 

 肝心のサウンドですが、見た目はグリガですが、だいぶ印象が変わりました。

 この楽器の形状の特徴として、オリエンテのコントラバスを比べると『お尻の幅が狭く』『肩の幅が広い』ということになります。

 この『楽器のお尻の幅』は低音の音量に直結しています。

 お尻の幅が広い方が、楽器の低音の音量は上がります。

 

 逆に『肩の幅』は、高音域の音色に直結していて、肩幅が広い楽器は、高音域を弾いた時に、低い音の響きも一緒に出しやすいので、刺すような高音域にはならず、ゆったりと高音を響かせやすい構造になっています。

 

 

 それやこれや、この楽器の特徴を読み取りながら調整をして・・・なかなか上手く仕上がりつつあるかな、と思います。

 

 

 

 この楽器、販売予定もございませんが、ご希望とあればレンタル用の楽器として、待機をさせつつ、普段は当店の実験用2号機として活躍してもらおうかな、と考えていますので、いつでも試奏は可能です。

 

 

 色々と凄い楽器でしたが、こうやって手を入れてみると、やはり可愛くなってきますね。

 

 コントラバスは、可愛いのです。

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